大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 昭和33年(行)25号 判決 1963年1月09日

原告 竹野林産株式会社

被告 豊岡税務署長

訴訟代理人 岡本拓

主文

被告が昭和三二年一〇月一六日付をもつて原告に対しなした同二七年四月一日から同二八年三月三一日までの事業年度及び同年四月一日から同二九年三月三一日までの事業年度の法人税等の再更正を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事  実 <省略>

理由

原告主張事実中一の事実は当事者間に争いがない。

証人今井治(第一回)及び同岸本金徳(第一回)の証言により成立を認める乙第一〇号証の二ないし四、証人今井治の証言(第一回)によつて成立の認められる乙第一号証の一、二に証人今井治(第一、二回)、同岸本金徳(第一、二回)同永田正一(第一回)の各証言を総合すると、原告の昭和二七年度の所得金額は同二八年九月三〇日に、同二八年度の所得金額は同二九年一〇月三一日に、それぞれ被告の更正によつて原告主張どおりの金額に確定していたところ(この点については当事者間に争いがない)、同三一年に原告会社監査役長谷川郁夫が同会社の役員であつた田垣林太郎、同永田正一を業務上横領罪で告訴し、右事件のために検察庁が押収した原告会社関係帳簿類を、豊岡税務署係員が調査した結果、右帳簿類には前記原告の所得金額の更正の際に被告に明らかになつていた原告会社の財産関係以外の財産関係(以下別口財産関係という)に関する記載があつたので、右係員は右田垣、永田の説明を求め検討した上で、右別口財産関係を原告会社に帰属するものと認め、原告会社の総勘定元帳を作成し、これに基いて、右別口財産関係のみに関する原告会社の同二六年、同二七年、同二八年各年度末の貸借対照表(同二六年度のものは乙第一〇号証の二、同二七年度のものは同号証の三、同二八年度のものは同号証の四)を作成したこと、右貸借対照表が原告会社の資産及び負債を正確に表わしているものと仮定すれば、原告会社の同二七年度及び同二八年度の所得金額は被告が再更正した金額であること、を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

ところで、右乙第一〇号の二ないし四(右貸借対照表)は右に述べたとおり、被告がその長である豊岡税務署係員が本件争訟を予想しうる状況下において作成した報告的文書であるから、その作成にあたつた右係員が原告会社の財産関係を正確に把握していたことが認められる等その正確性を担保するに充分な補強的証拠なくして、その記載内容を直ちに真実のものと認めることはできない。

そこで以下右乙第一〇号証の二ないし四の記載内容の正確性について判断する。

証人岸本金徳の証言(第一回)によつて成立の認められる乙第五号証、同第八号証に証人永田正一(第一、二回)同田垣林太郎の各証言、原告会社代表者山下純三本人尋問(第一回)の結果(後記措信しない部分を除く)を総合すると、原告会社は同二六年三月に設立した株式会社であるが、もともと田垣林太郎、永田正一、山下純三の三名が共同事業として営んでいた山林立木売買業に新たに製材業を加え、これらの経営を株式会社組織に変更したものであつて、原告会社の実態は右田垣ら三名の共同事業というべきものであつたこと、原告会社設立にあたり、表向き資本金は金一〇〇万円としたが、右設立当時右田垣ら三名の従前の共同事業による資産は金六三七万九、二〇〇円に達しており、これらの資産のうちから右資本金を差引いた資産については、原告会社の設立にあたり別に右三者間で清算分配することなく、原告会社の隠し資産として留保せられていたこと、(右三名がかかる隠し資産を作つたのは、これらを表向き資本金とすると資本金の出所を税務署から追及されることをおそれたからであること)、原告会社設立後はその事業のほかにこれと区別される右三名の個人的共同事業はなかつたこと、かかる隠し資産をもつて発足した原告会社は製材業のほかに山林立木の売買取引も行つていたが、課税を免れるために、一部その取引を仮空名義で行い、かつ二重帳簿を作成するなどの方法により、正式の商業帳簿に記載して税務署に対しても明らかにされる資産や所得以外にかなりの資産や所得を隠ぺいしていたこと、を認めることができる。

原告は、原告会社設立後においても前記田垣ら三名の個人的共同事業は継続しており、右共同事業から生じた所得はあつても、これをもつて原告の所得と目すべきではないと主張し、証人吉岡一郎の証言、原告代表者山下純三本人尋問(第一、二回)の結果には右主張に副う部分があるが、前掲各証拠に比して右供述部分を措信することができず、右原告の主張は採用できず、他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実によると、原告会社は前記更正によつて確定した所得金額以外にかなりの所得(以下別口所得という)を有していたことになるが、このことのみをもつてしては、いまだ、前記乙号証における右別口所得の具体的金額についての記載内容までを真実なものと認めることはできないと考えられるので、以下進んで、右乙号証作成の資料となつた前記原告会社関係帳簿類の記載の正確性及び右乙号証作成にあたつて前記税務署係員がなした調査方法が原告会社の別口所得の把握に充分なものであつたか否かについて判断する。

真正な公文書と認められる乙第一号証、証人長谷川郁夫の証言によつて成立の認められる甲第五号証に証人永田正一(第一、二回)、同田垣林太郎、同長谷川郁夫の各証言、原告代表者山下純三本人尋問(第一、二回)の結果を総合すると、原告会社の経理はその設立当時から引続き前記永田が担当し、前記原告会社関係帳簿類の作成も主に同人があたつていたが、同人の作成した右帳簿類のうち別口財産関係に関するものは、監査役長谷川郁夫の全く知らなかつたものであり、前記代表取締役山下においてもその正確性につき検討を加えたことのないものであつたこと、そればかりか、右永田の経理、記帳については、同二八年夏ごろから右山下が、同三〇年二月ごろから右長谷川が、それぞれ不正の疑惑を抱くようになり、右長谷川は同二九年度の原告会社決算報告書の記載内容につき種々疑点を見出してこれの作成にあたつた右永田に対し追及したこと、右永田は原告会社の別口財産関係について何も知らなかつた右長谷川に対しこれを説明して同人の指摘した右疑点について了解を求めたが、これを得ることができず、同三一年に右長谷川より原告会社財産の業務上横領のかどをもつて告訴されるに至つたこと、右永田及び前記田垣は、前記税務署係員から前記原告会社関係帳簿類についての説明を求められた時には、すでに原告会社を退いていたものであること、右永田は右税務署から調査済みの右帳簿類の返還を受けたが、これを焼却してしまつたこと、を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実に照すと、主に右永田の作成にかゝる前記原告会社関係帳簿類はその記載内容の正確性について原告会社役員間において疑義のあつたものであり、かつ、右帳簿類について前記税務署係員に説明をした永田、前記田垣は当時必ずしも原告会社の利益を代表する者とは認めがたい者であつたというべきであるから、前記税務署係員が、かゝる帳簿類につき右永田や右田垣の説明を聴取して調査検討しただけでは、原告会社の別口所得を正確に把握するに充分なものと認めることはできない。

そして、証人今井治(第一回)、同岸本金徳(第一回)、同長谷川郁夫の各証言、原告会社代表者山下純三本人尋問(第一回)の結果によれば、前記税務署係員が乙第一〇号証の二ないし四の作成にあたり右原告会社関係帳簿類についてその説明を求めたのは、石永田及び右田垣のみであつて、原告会社代表取締役山下、同監査役長谷川に対しては何ら事情の聴取を行なわなかつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

また、証人岸本金徳(第一回)の証言中に、前記税務署係員岸本金徳が右原告会社関係帳簿類に記載されていた借入金の一部について借入先に問合せて確認した旨の供述であるが、右供述をもつてしても、右税務署係員が右原告会社関係帳簿類の記載内容につきその正確性を認めるに充分な取引先の問合せ等の確認調査をした、と認めるに充分でなく、その他全ての証拠に徴するも、右のごとき確認調査をしたことを認めるに充分な証拠はない。

また、証人岸本金徳(第一、二回)の証言によると、前記乙第一〇号証の二ないし四に記載されている「立木棚卸高」の算定については、前記税務署係員と前記永田及び田垣との間でも意見が相違し、結局右係員が各年度末の取得価格をもつて立木棚卸高と認定したことが認められるが、右取得価格をいかにして認定したかは全ての証拠に徴しても明らかでない。

以上のほかにも、前記税務署係員が、乙第一〇号証の二ないし四を作成するにあたり、原告会社の別口財産関係を正確に把握していたことを認めるに充分な証拠はないから、かゝる右係員が作成した右乙号の記載内容を真実なものと認めることはできない。

そして、右乙号証のほかに、原告の昭和二七年・同二八年各年度の所得金額が被告において再更正した金額であることを認めるに足りる証拠はないから、被告のなした本件再更正は、原告の所得金額の認定を誤まつたものとして、違法のものというほかはない。

よつて、原告の請求は理由があるのでこれを正当として認容し、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 村上喜夫 黒田直行 平田浩)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例